熱処理木材の盲点

職人日記

盆休みだと言うのに、知り合いの工務店から、無垢フローリングの再塗装を依頼され、渋滞の中、小田原まで出掛けた。行けば、海岸沿いの見事な邸宅、30畳はあろうかと言う居間に、幅広のフローリングが敷き詰めてある。一目で、㎡2万円は降らない高級品、と見分けが付く。

ところが、良く見れば、酷く色が抜けている箇所がある。一部、絨毯を敷いてあった箇所など、真っ白く浮き出た様になって、見られた物では無い。施工から半年しか経っていないと言う。確かに、これでは文句が付く。

経緯を聞けば、流行の熱処理木材で統一した内装だと言う。で、壁面、床面そして一部家具に至るまでコーディネイトして使ったのだと。

熱処理木材とは、薬品を一切使用せずに、水蒸気を与えて、木材を釜で蒸し焼きにし、その結果、木材自体の劇的な寸法安定性の向上、水を弾き易くなる事に拠る耐久性アップそして表面の微妙な色のグラデーションを楽しむという物。環境調和型資材等と言う分類で、サーモウッド、ヒートウッド、調湿木材等、様々な呼び名で言われているが、メーカーから見れば、そのままでは商品価値の低かった樹種が、熱処理する事で化けて、価格が大きく上がるというメリット有り。発祥は欧州だが、最近は、デッキ材や外壁材等の用途を初めとして、日本でも急速に注目を浴び、新規参入が増えている。

確かに、何とも言えない微妙な色のトーンは、素人目から見ても、素晴らしく、塗装ではどうにも出ない自然な表情。加えて、一切の薬品を使用せず、木材をより安定した材料として、処理するという発想はとても時代に合っている。樹種毎の釜に入れて置く時間と、圧力の掛け方が重要な製造ノウハウ、と言うが、ともかく、この表情で内装を統一したいという要望が出るのは至極、当然だろう。

一方、この現場で見る限り、フローリングの退色が酷い。特に日光や床暖房で、それなりの熱が長時間掛かった箇所ばかり。樹種はアッシュ(タモ)の幅広150mmタイプ。メーカーも施主も、オイル塗装の掛け方がまずかったから、等と思っていた様だが、原因は僅かな経年変化で、下地の色が極端に薄くなった事。オイルのせいでは無い。下地のムラをオイル塗装では隠し切れなかった。

デッキが退色しても不思議に思う人はいないが、フローリングで、これほど酷い色むらが起こっては、そうは行かない。熱処理木材に、こんな弱点があったとは、こちらも初めての経験だ。

家財を退かし、薄い部分に何度も念入りにオイルを刷り込んで、
ようやく3日掛けて終了。原状復帰には程遠いが、我々が手や顔をオイルまみれ、汗まみれになって、ずっと作業していた姿を見て、施主が「もう、いいですよ」と。

発想、性能そして外観の素晴らしさから、今後の内装の大きな流れと思い込んでいた熱処理木材だったが、内装材への転用は、まだまだ課題があると考えさせられた一日であった。